フォノシート'61

1.続く新刊ラッシュ  
 1月,旺文社は,58年7月に始まった『英語学習レコード+ブック』シリーズにレコード1枚,シート2枚構成のポピュラー版(当初の名称は普及版)を新設,4月には,業界初の3つ折りシートホルダー・ジャケット月刊シリーズ『世界の民謡』(全10集)の刊行を第1集『アメリカ/ドイツ』よりスタート,日本英語教育協会としても『英語の基本学習テキスト』1〜3を各シート1枚付で発行した.6月には,三修社が『ドイツ語レコードブック』をシートとレコードの2タイプで発売,白水社からも旭フォノカード製のカード3枚付『ぼくらのフランス語』が出ている.
 筑摩書房は,4月25日,昨年末からの『世界音楽全集』に加え,『世界ポピュラー音楽全集』(全15巻,別巻1巻)の配本を第1巻『最新映画音楽1』より開始,本年中にそれぞれを第15巻+別巻第2巻,第9巻まで進め,さらに,11月10日には,高橋誠一郎監修による『現代謡曲全集』(全50巻,別巻20巻)の配本を第12巻『熊野(ゆや)』より開始,12月10日に第32巻を発行した.
 新規参入では,人文・農工業系の八雲書店が『ヤグモ・ミュージック・ブックス』(月刊)第1号:シート4枚付『これがドドンパだ』,大阪のメーカーで後にテイチクと提携する日本アーサー・レコードが『映画とヒット曲集』(不定期),サンライズレコードが『サンライズ・フォノ・ブック』(月刊)第1集:旭フォノカード製の0.4mm厚,20cmシート2枚付『MOOD MUSIC IN LATIN & CHANSON』,じゃぱん・その・まがじんが『JAPAN SONO MAGAZINE』(月刊)第1号:シート4枚付『魅惑のギターアルバム』をそれぞれ6月,8月,10月,11月に発刊する.
 他業種では,10月,東京放送の技術・印刷関係の子会社であるラジオ東京サービスの出版部が『東京フォノ・ブック』名で,シート4枚付の『映画音楽ヒットパレード』(月刊)をガン・ミュージックを特集して創刊,12月には,55年Hi−Fiプレーヤーを発売,59年音楽教室を開設していた日本楽器製造が10月に設立したヤマハミュージックも,ピクチャー盤+エアメール風包装,国内未発売原盤による『ヤマハ・エアメールヒットアルバム』(YM規格)シリーズの刊行を『ソノラマ』と同じく東販の専売で開始する.
 書籍では,七曜社がCANDLE RECORD製のシート2枚付の服部竜太郎『日本民謡・拾い歩き』とその普及版(箱なし)をそれぞれ6月,12月に,大日本図書が,6月20日,内田清之助『鳥のむかし話』を鳥の歌声シート3枚付で,ポプラ社が『目で見る耳できく沖縄の戦跡』をシート4枚付で,誠文堂新光社が『無線と実験』10月号臨時増刊『電子楽器と電気楽器』をフィルム・レコード1枚付で,それぞれ発行している.
 このように61年も新刊ラッシュは続いたが,雑誌の多くは,内容を『映画音楽』と『ポピュラー音楽』に絞り,形式も『別冊KODAMA』,『ソノラマ別冊』で成功した同一タイトルの分割刊行を採用,このスタイルは以後の各誌のスタンダードとなる.ただし,先鞭を付けた『講談社の「若い女性」フォノシート』の本年中の展開は穏やかで『映画名曲集』第3,4集をそれぞれ6月,12月に発売したのみである.

2.コダマプレス  
 大幅な人員削減と社屋の移転などを経て,1月より,コダマプレスが活動を再開,伊部利秋編集長が編集部長に,六法編集室時代からの伊部の後輩来嶋靖生が編集長にそれぞれ就任した.
 復帰第一号となった3月20日の別冊第48号「外国民謡集第2集」は耳付シートであったが,4月8日発行の本誌第14号から,誌面,シート形式とも一新,収録は15号より「映画音楽」と「ポピュラー音楽」,表紙とインタビュー記事は国内映画各社の女優たちと,新たに加えられた副題「SCREEN MUSIC & KODAMA★HIT PARADE」が示す内容となり,巻末には「読者モニター」や「シートの委託製作」のお知らせも掲載,本年中に第22号まで進んだ.復帰後の別冊は,出足こそ鈍かったものの夏以降ペースを取り戻し,8月31日には,別冊初のステレオシート2枚付,ハードカバー32頁の第61号「<コダマ版>風と共に去りぬのすべて」,続く62号からの「ラテン名曲全集」(全3巻,補巻),「童謡列車1,2」など,本年中に11月15日発行の第68号「白銀に歌う」まで進む.

3.朝日ソノプレス社  
 本誌『ソノラマ』は,第12号より『KODAMA』が英会話シートを失ったことで,唯一の総合音出誌となり,第2巻から作家の『自作朗読』と風土記『日本の音』の連載を2本柱に据え,その人文・社会色を一層濃くしていく.
 一方,60年春の企画始動以後,実演家や発行スケジュールの都合で先送りとなっていた『バイエル全曲模範演奏』が,3月の録音を経て,5月25日C−9『上巻』,30日C−10『下巻』,各シート8枚付,ハードカバー箱入りで発売,重版合わせて30万部以上の成績を挙げた.この「C」規格は,昨年末の「T」をリセットしたものだが,バイエル以降,C−11『ツェルニー30番全曲集』,C−14『讃美歌』,C−15『仮名手本忠臣蔵』など,シート8〜10枚の大型企画を担当した.
 映画評論家を編集部長にもち,第6号の『ソノ・スクリーン』以来,毎号の本誌で映画音楽シートを送り出してきた朝日ソノプレス社も,10月21日,ついにシート5枚付の月刊誌『朝日ソノラマ映画音楽』を「D」規格を新設して創刊,先行したソノブックス社『月刊映画音楽』が62年で途絶する一方,第9号より20cmステレオシート,第32号よりダイナミックレンジ,チャンネルセパレーションを向上させた22cm「ソノシート<スーパー>」を採用,64年7月の第34号まで連続刊行する.
 別冊「B」規格は,『日本童謡集』,『日本唱歌集』,『日本/世界民謡集』,『家庭名曲集』シリーズを中心に,『ブーフーウー』,『歌舞伎』などトラッドに徹し,12月15日発行の第43号『日本唱歌集5』まで進む.また,1月30日には,『ソノラマ年鑑・音で残す1960年』も出ている.

4.東京エンゼル社 
 東京エンゼル社は,3月20日,業界初の両面シートを採用してクラシックシリーズ第1集『未完成交響楽』を発行.これは前年より『青春のしらべ』,『チャイコフスキーバレー名曲集』,『若人の歌』,『ウィンナワルツ集』と続く,非ビクター系の企画で,音源提供は東京放送,半透明シート2枚も旭フォノカード製であった.また,音楽監督に紙恭輔を迎え,英国I.M.P.と提携,楽譜も出版された,輸入盤を思わせる9月からの『EVERY ONE MUSIC』シリーズ(当初の予定は10月以降毎月1集ずつ第一期全12集.実際には途中タイトルを改め5集まで)の1〜4集で採用された業界初の0.4mm厚,20cmシート2枚は日加工業の塩化ビニールを用いたものであった
 日本ビクター原盤では,2月20日『日本軍歌集』,3月25日『ビクターヒットソングNO.2』,45回転カード採用の既刊2集をまとめた『ロシア民謡・決定版』,5月『日本の郷愁・ムードミュージック』,『市丸端唄十八番集』,『踊るヒットメロディ』,『少年民謡・お国自慢』,『ビクター盆踊り』,7月『日本軍歌集2』,『日本民謡の旅・東北篇2』,『魅惑のマヒナスターズ』,『松尾和子・ピンクムードショウ』,8月『坂本九ちゃん大いに唄う!』,『ラテン・ムード・イン・クラシックス』,『家庭のための行進曲集』,9月『ビクターなつかしのヒットアルバム』,11月『マヒナスターズヒットパレード・魅惑のマヒナスターズ2』をいずれもシート4枚付で発行した.
 なお,同社は,12月11日,日本ビクターの傘下に入り,「ビクター出版」へと改組,資本金1000万円となったが,編集部の移転はなかった.MBK−1001は,フォノカード時代からの定番,マヒナスターズによる「ブルー・クリスマス」などを収めたピクチャーシート2枚付のクリスマスカード『クリスマス・イン・ジャパン』である.

5.ディスク社 
 ディスク社では,既刊の2誌,ポピュラー,ジャズ,ラテンの『別冊ジューク・ボックス』,クラシックの『家庭名曲アルバム』に,キング,アテネレコード工業製のシートを用いていたが,前者の終刊に伴い,2月15日,ニッポンエコー製の0.15mm厚シートを採用して同社最長のシリーズとなるクラシックと世界民謡のディスク・シート『世界名曲シリーズ』(月刊,MS規格)の第1集『ヴァイオリン名曲集』(当初の予定は『フォスター名曲集』)を発行,7月15日発行の第7集でステレオ化を果した.
 10月には,ディスク・シート『ソナチネ・アルバム』(上,下巻)を各シート6枚付で単行.11月の第15集で終刊した『家庭名曲アルバム』に代わり,同社第4のシリーズ『ディスク・ポピュラー・パレード』の刊行を,12月1日発行の第1集『グレン・ミラー ダンス・パーティー』より開始する.
 単発企画では,シート4枚付の『たのしいクリスマス』が11月20日に,『別冊ジューク・ボックス』,『家庭名曲アルバム』と『世界名曲シリーズ』からの『特選集』がそれぞれ5月,10月に出ている.

6.音楽之友社 
 4月15日発行のロシア民謡アルバム第3集『100萬人のロシア民謡2』に『音の出る「音楽の友」』の副題を与え,20日にもシート4枚付の『ダンス教室』を単行した音楽之友社は,シート3枚付の『目と耳による音楽の学習・少年少女のための音楽実技全集』(全13巻)シリーズの刊行を30日の『歌唱編1』より開始.5月31日には,シート2枚付,142頁の旅行記『ダークの世界よちよち歩き』,8月1日には『初級ウクレレ教室』,10月には,シート12枚付の『コールユーブンゲン全曲範唱』(上,下巻),11月5日にも,東京少年合唱隊によるシート4枚付『おお牧場はみどり』を発行する.
 水星社としては,7月,『ジャズの歴史』第1集『ブルースの誕生』,第2集『ディキシーランド・リバイバル』をいずれもシート4枚付で出した.

7.有信堂マスプレス 
 親会社の来歴に違わず文学作品の朗読から始まった『マスプレスシリーズ』であるが,やはり売れ筋は「うた」であった.とくに前年12月の『想い出の軍歌集』は,フォノシート初の軍歌集ということで反響を呼び,3月に第2集,5月に第3集,8月に第4集が刊行され,続く全集企画として,大人向けの『詩吟入門』(全5集,当初の予定は全6集),若者向けの『世界学生歌集』(全2集,当初の予定は全5集),大作となった『日本童謡全集』(全12集,当初の予定は全20集)の第1集がそれぞれ2月,7月,8月に発行された.

8.ソノブックス社 
 

9.現代芸術社 
 現代芸術協会において『テレビドラマ』の初代編集長を務めた長嶋武彦が60年10月に興したのが現代芸術社である.資本金は50万円.同社最初のシリーズ,60年12月創刊の『SONO−JOURNAL』(不定期)は,67年までに通号数300を超えた大作であり,そのラインナップは子供向けから民謡まで,比較的落ち着いたタイトルで占められるが,9月20日,『音の出る月刊誌 若い音楽 YOUR HIT PARADE』がミッキー・カーチスの唄う「G.I.ブルース」他を収めたシート5枚付『ロック特集』として創刊されるまでは『最新映画音楽集』,『最新ヒット曲集』各3冊など,流行指向のタイトルも担当し,12月1日発行のSONO−JOURNAL14『ブルース傑作集』まで進む.
 なお,現代芸術社は,日本エンゼルレコードと縁戚関係にあり,シートも同社のものを採用したが,SONO−JOURNAL3よりニッポンエコー製に切り替える.また,規模拡張に伴い編集部を,4月,角筈から四谷へ,さらに年末,永田町へ移している.

10.日本エンゼルレコード社 
 日本エンゼルレコードは,フォノカードの製造元として昨年2月に創業,資本金は100万円,社長の長嶋正巳は現代芸術社の長嶋武彦の実弟である.「日本エンゼルレコード社」は,朝日ソノプレス社,ソノブックス社に続くプレス機を有する第3の版元として同社が自社企画のフォノシート発行に用いた商号であり,その編集部は初期の現代芸術社社内にあったが,10月,神田三崎町に移転する.なお,創業者の一人,編集代表の花岡昭は詩人花岡謙二の三男である.
 同社は,2月,45回転シート2枚付,米・LIBRTY録音盤使用の『アラモの歌/遥かなるアラモ』より『ANGEL−BOOKS』シリーズをスタート.4月の『魅惑のシャンソン1』から,途中ナンバリングを改め,12月の第26号『魅惑のワルツ』まで進める.

11.東芝フォノブック 
 東芝音楽工業は,4月5日,ハードカバー装丁B5変形版,シート4枚付「東芝フォノブック」の第1弾として,歌唱・観賞教材を収録した指導要領準拠共通教材『こども音楽教室』(全8巻.第1,2,6学年のみシート3枚)を発行,フォノシート出版に参入した.
 同社は,昨年10月1日,東京芝浦電気のレコード事業部が独立したもので,資本金は1億5千万円.その出版部は朝日新聞新館8階にあり,朝日ソノプレス社と技術提携,販路面でも既に『東芝教材用レコード』を東販が一手販売していた.
 発行タイトルは,当初,『そろばんテキスト』(全8巻.各シート8枚付),『国旗と国歌の歴史』,『フォークダンスの花園第1集』,『日本の民踊第1集・うたとおどり』(シート5枚付),『民謡世界めぐり・イタリア篇T・U』,『こども唱歌全集』(全6巻)といった学芸専門であったが,6月からは,主力商品となる『ポップス NO.1』シリーズ(「テレビ映画篇」,「ディキシーランド・ジャズ篇」,「ハワイアン篇」,「西部劇篇」,「アルゼンチン・タンゴ篇」,「シャンソン」,「ヒット パレード」,「ラテン」,「映画音楽」),7月『民謡世界めぐり・フォスター篇T』,『ピアノへのいざない・ショパン篇T』,『映画・テレビシリーズ1・フランス映画「熱風」』,8月『民謡世界めぐり・フォスター篇U』,『ピアノへのいざない・ショパン篇U』,『映画・テレビシリーズ2・夕やけ子やけの赤とんぼ』,『映画・テレビシリーズ3・東宝作品「ゲンと不動明王」』といったポピュラー,世界民謡,TV映画音楽へと拡大していく.
 なお,同社シートのレーベル印刷は収録分野別に色分け(邦楽=鼠,洋楽=藍,教養・民謡=茶,教材=緑または無,児童=赤)されており,シートナンバーの頭文字は収録分野(邦楽=C,洋楽=Y,教養・民謡=H,教材=K,児童=J),ブック表4の4桁の数は各分野における通号数(邦楽=0001〜,洋楽=2001〜,教養・民謡=4001〜,教材=6001〜,児童=8001〜)を表している.

12.青林書院
 54年3月,柴田書店創業者柴田良太と勁草書房主幹であった逸見俊吾が設立したのが青林書院である.資本金は100万円.同社は逸見の企画力により『法律学演習講座』,『経済学演習講座』などの学術全集を刊行,56年,経営方針の違いから柴田の持ち株を逸見が買取り,その後も『現代法学全書』など法律・経済の専門書を軸に進んだが,刊行点数過多,社屋の新設などから経営が悪化,打開策として,金文字レーベルの0.15mm厚黒色シート4枚付『日本音楽全集』(全6巻,当初の予定は歌曲・民謡・童謡・歌謡曲・器楽・軍歌・校歌・俗曲・端唄の各分野から全20巻)を企画,昨年9月頃より準備を進めていた.
 同全集は,筑摩書房の『世界音楽全集』の国内版に位置するものだが,早大在学中より慰問公演を企画実行し,自ら「出版屋になるか芸能マネージャーになるかの男だった」と語る逸見社長の音楽・芸能界への知己を生かし,山田耕筰,藤原義江,野呂信次郎,町田嘉章,堀内敬三,増沢健美,内藤清五,服部良一,吉田正を監修,一部執筆に迎え,キングレコード,日本ビクターと契約,各社専属歌手のオリジナル原盤を使用するなど,成功すればシート出版参入の初弾にして大手レコード会社楽曲の一大窓口となるはずのシリーズであり,発刊を機に資本金も600万円から700万円に増資という,正に社運を賭けた商品であった.
 しかし,同全集は,類型的な企画の他社に対しソフトで優位に立ちながら,商品の基礎であるシートの製造で躓く.すなわち,4月,レコード会社が委託したプレス業者による納期遅延・不良シートの納入が発生,PR盤を用いた15日の東京・札幌,17日の仙台での発表会は不評に終わり,事態への元請けレコード会社の対応も不適切であったことから,日加工業製の材料シートを青林側が直接プレス業者に届けるなどして改善を促したが,第1回配本(予約7万部余)は27日から5月にかけての段階的な送本(予定では25日6万部を一括配本)となり,それでも不良品の返本が続出した.
 これにより良品であった第2回配本以降も振るわず,7月8日18:00〜21:00には,厚生年金会館にて「日本音楽全集発刊記念音楽会」(全巻予約者は入場無料.当初は全国各地でも順次公演予定)を開催,0.4mm厚20cm赤色シート2枚付『バイオリン ピアノ世界音楽名曲集』(当初はバイオリン,ピアノの有力演奏家各3名,辻久子・巌本真理・諏訪根自子,安川加寿子・野辺地勝久・原智恵子を特集する全6巻,第2回配本は安川加寿子編を予定)辻久子編,巌本真理編(監修牛山充,16頁,480円)をそれぞれ8月15日,9月10日に発刊するも,9月16日,総負債額約1億3千万円で倒産,関係者の尽力により,12月7日,青林書院新社の発足となる.

13.勁文社 
 講談社において「少年クラブ」,「キング」の編集長を務めた加納勲が61年2月14日に設立したのが勁文社である.資本金は100万円.同社は,5月1日,ピクチャー盤による「テクニカラーLPレコード」NO.1「ユア・ヒット・パレード1」を発行,本年中に「ユア・ヒット・パレード」,「ウエスタン・ヒット・パレード」各3集を含め,NO.10「若人のうたごえ」まで進めた.収録はNO.1,7以外はステレオ,NO.3より「総天然色レコード」名が大きく用いられる.10月10日発行のサントラ編集盤,NO.7「さよならトニー」は爆発的な反響を呼び,62年以降の同社の路線を決定付けた.

14.ピクチャー盤 
 紙をベースとするピクチャー盤は古くから多くのメーカーが供給していたが, 樹脂製品であるフォノシートではレーベルの印刷すら難しく,当初,品番のエンボス,或いは別途印刷したシールの貼付に留まっていたものが,昨年後半より,シルク印刷されたシートが徐々に増加する程度であった.
 これに対して,本年キングレコードが投入した「カラー・シート」は,透明度の高い材料にレコード同様の蒸気プレスで1枚約30秒をかけ形成した高精度の音溝を持つフォノシートの裏面から,一陽社が「COLOR−ECHO」として文字・図版を印刷するもので,和田正三郎キングレコード取締役技術部長が高速プレス機によるシートとの違いを新聞とグラビアに例える自信作であり,講談社,勁文社,ヤマハミュージックのほか,新潟交通,三重交通,富士急行などがこれを採用した.

15.声のえほん 
 ひかりのくに昭和出版は,本誌準拠のカード3枚,180円の「ひかりのくに月刊・声のえほん」を,昨年9月号より,童謡・言語・音楽リズムなどの保育教材と位置付けていたが,本年4月号より,童謡3曲,シート1枚,50円の「うたのシート」と改め,本誌同梱セット,100円も導入する.
 第1期完結後,第1〜10集のケース入セットが販売されていた人気シリーズ「声のえほん」の第2期配本が,4月よりスタート,穏やかな演技と語りの泉田行夫,少年役を得意とする太田淑子の出演で,斉藤超のハモンドオルガンが冴える第20集「のりもの」まで進む.なお,同シリーズは,第1期第4集までがカード2枚,180円,第5集以降がシート1枚,150円であったが,本年8月,第1〜4集もシート1枚,150円とし,表紙も小窓からカードが見えるタイプから,第5集以降と同じタイプに改訂された.これらのカード,シートはいずれも日本ビクター製である.

16.サン・アルバム 
 59年12月創立,全商品を「サン・アルバム」名で発売するサンキョー・レコードは,昨年末より,日本グラモフォン・キンダーレコード原盤によるシート2枚「よい子の音楽特選集」(全2集),ボリショイ劇場専属ソプラノ来日記念・労音シリーズ1「ロシア民謡集」,安保反対闘争の記録,シート3枚「怒りの証言」を発刊してきたが,2月,渋谷修企画・監修によるシート4枚「うたごえ」が「北上夜曲」を収め大ヒットとなり,11月の第10巻まで刊行,12月1日にはケース付の全10巻セット,および,お好み3巻セットも発売した.
 続く12月23日発行,日活第2次ダイヤモンド・ラインの宍戸錠を特集したシート3枚,特選ブロマイド付「エースのジョーのすべて」は,グラモフォン繋がりとはいえ堅実路線の同社としては異色の企画であり,現役映画スターを特集した業界初の商品でもあった.

17.アテネレコード工業 
 プレスのみならず,原盤のカッティング,マスター・マザー・スタンパーの製造から,レーベル印刷,各種検査までの全工程の設備を保有するアテネレコード工業は,前年からのプレス機6台体制のもと,5月時点で1台1日2万枚,良品合計200万枚を月産,7月には材料シートの切断,巻き戻しの一部を自動化,8月,原盤工程を新設,9月,新工場用地を買収,12月より20cm盤の製造を開始している.
 本年,同社では東京エンゼル社,筑摩書房,青林書院(日本ビクター担当回),ひかりのくに昭和出版,ディスク社,サンキョー・レコード,ラジオ東京サービス,有信堂マスプレスほかのシートをプレス,従業員も100名を超えたが,とくに受注の増加を反映して品質検査係などの女性が半数近くを占めていた.また,東京事務所は八丁堀から銀座に移転する.

18.フォノシート出版協会
 フォノシート出版の発展と版元間の親睦を図ることを目的に,7月より発会が表明されていたフォノシート出版協会が,9月1日,コダマプレス内に仮事務所を置いて発足,後には東販内で,月1回程度の会合を持った.幹事は,桑原義一(コダマプレス営業部),岩月日出夫(朝日ソノプレス社業務部),酒井喜太郎(東京エンゼル社編集部),入会金は1万円,年会費は8千円.同会では,版元間の情報交換のほか,唯一の業界団体として,会員社のシートを統合した目録・チラシの制作,全国デパート・書店への「フォノシート・コーナー」設置の勧誘・援助といった活動も行った.
 発足時の会員社はコダマプレス,朝日ソノプレス社,東京エンゼル社,ディスク社,有信堂マスプレス,筑摩書房,現代芸術社,東芝音楽工業の8社,その後,サンキョー・レコード,勁文社,ラジオ東京サービスが加わり,62年2月時点で11社,更にソノブックス社,日本エンゼルレコード社,サン出版社が加わり,全14社となるが,東芝音楽工業,ラジオ東京サービス,ソノブックス社,日本エンゼルレコード社,サン出版社が退会して,62年10月には11社,63年3月には9社.更にディスク社が抜け8月末には,コダマプレス,朝日ソノプレス社,ビクター出版,有信堂マスプレス,筑摩書房,現代芸術社,勁文社,レコード出版の8社となる.

19.特品販売課 
 東販は,4月,販売部に特品販売課を新設,それまで販売促進課第3係の担当であった「ソノラマ」,及び,その関連商品の販売業務を移管.7月には,版元31社の既刊約450点を収録した「SOUND BOOKS・音の出る本のもくろく」を発行.12月1日からは,音出誌をフォノシートと改称し,フォノシート伝票,特殊品口座を導入,また,フォノシートの返品処理も従来の書籍・雑誌別扱いから雑誌商品課に一元化している.
 大阪屋も,8月21日実施の機構改革において,本店営業部に特殊商品販売課,東京支店に特販係をそれぞれ新設し,フォノシートのほか,楽器,教材など特殊商品の取扱いを統一,さらに,9月より文房具,10月よりプラモデルの取扱いを開始した.なお,同社ではフォノシート出版物を音盤誌と呼ぶ.